チェリー～君が呼ぶ、あたしの名前～

しばらく呼び出し音が続いた。微かに聞こえる純恋歌とコールが、あたしの思考に染み込んでくる。

…出るかな。

ふいにコールが止んだ。思わず姿勢を正す。

『…はい？』

少し間をあけて聞こえる声。あの彼だ、と思った。

「あ、もしもし」
『…もしもし？』

もしもしエンドレスになりそうな気がして話を変えようとする。

「あの…お久しぶり？です。えっと…間違い電話の方の、サクラですけど…」

言った後で、無神経かなと思った。
でも今更亜弥だと名乗ることもできない。

『ああ…はい、わかります』

予想外に電話の向こうの彼は、落ち着いた対応をしてくれた。
少しだけ冷静になる。

「あの…こないだはホントに、すみませんでした。」
『いや、それはこっちの台詞です。いきなりあんな間違い電話…』

あの苦笑が聞こえた。なんとなく直感で、"サクラ"さんには連絡をとってないのだと思う。

「…連絡、とれましたか？なんか気になって…」
『あ…いや…。確かに気になりますよね、あんなこと言って。』

すみませんと笑いながら謝る彼。あたしもいえ、と小さく笑った。