チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~

『ねぇ、チェリ』

マモルがそっと囁いた。

『そろそろ、明るくなってきたんじゃない?』

え、と言いかけて、でもその前にわかった。

気付いたら夜は明けて、空は明るくなっていた。

「うん、明るいよ。…朝だね」
『ねぇ、空見てみて。もしかしたら見えるかも』
「え?」

あたしは空を見上げた。いつもと同じ、東京の朝。ビルに囲まれた四角い空。

でも。

「…マモル。見えたよ」
『え、ほんとに?』
「ホントに。ねぇ、マモルはエスパー?」

空を見上げて呟くあたしに、マモルはふっと笑って『天気予報で予想したんだ』と言った。

昨日の東京の夜は雨。その代わり、明け方からは明るい太陽が顔を出すでしょう。

「そっちは出てないの?」
『残念ながら、雨は降らなかったんだ』
「でももしそっちで降ってたら、きっとアーチが見えただろうね」
『そうかもね』
「…でも」

でも、こっちでも十分綺麗だよ。
四角い空。朝独特の澄んだ青。
そこを横切る、4分の1ほどの短い虹。

虹なんて見たの、いつぶりだろう。

虹ってこんなに、綺麗だったんだ。

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