チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
「これで」
不意に後ろから手が伸びてきた。紺色のスーツの色まで、今も鮮明に覚えてる。
振り向くと、彼がいた。
180はあるだろう長身に、サラサラの黒髪。キリッとした目許は、優しくもあり、冷たくもあった。
その目許にあたしは、吸い込まれる。
彼が差し出したカードを店員は「…いいんですか?」と確認し、彼は「ああ」と無愛想に返事を返した。
店員が作業をしている間、あたしはレジの前で固まっていた。
心臓がドキドキうるさい。
精算を終え、彼はカードを受け取りそのまま踵を返してしまった。あたしはようやく思考が動き出す。
意外にも(いや、足の長さからして当然か)足早に行く彼を、あたしは急いで追いかけた。