チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
「…凄いね、バイオリン」
『凄くないって。全然うまくないし』
「嘘、絶対うまいよ!なんか…うん、わかるかも。マモルっぽい」
『俺っぽいって』と苦笑するマモル。照れてるのか、困ってるのか。
マモルは、自分が誉められることが苦手なのだ。
いい意味で、お人好しというのか。
「ね、何か弾いてみて!」
ベッドにトンッと腰かけて提案するあたし。同時に向こうから、小さな溜め息が届いた。
『…言うと思った』
「言いたくて聞き出したんだもんっ」
『やだよ。恥ずかしいじゃん』
「大丈夫だって!あたしクラッシックなんて全然わかんないし、多分何聞いても凄いって感じるから」
『それ、励ましになってないよ』と苦笑しながら、またひとつ、溜め息をついた。
『…一曲だけだよ?』
「ほんとに?やったぁ!」
頼まれるとマモルは断れない。その事もあたしは、十分に理解していた。
少し準備に時間かかるから、と、一旦電話を切る。
ベッドの上で正座をし、携帯とにらめっこしながら待っていた。
わくわくする。マモルの音楽が聞ける。またひとつ、マモルに近付ける。
しばらくして、待ちわびた『銀河鉄道の夜』が流れ始めた。