【完】天使の花〜永遠に咲き誇る愛を〜
顔が再び近くなる。
会社での氷室部長の瞳とは違う。
私を見つめるその瞳は妖艶でもあり
欲しているオトコの瞳でもあり
狙った獲物を捉えて離さない
野獣の瞳にも見えた。
「…氷室…部長?」
カラダに走る緊張感の中
「……羽美花。」
私の下の名前を呼んだ氷室部長。
胸が高鳴り、さらに“ドキッ”とした。
「……俺だけを見てくれ。
今すぐは無理でも
少しずつ笠置を忘れてくれ。」
「……えっ!?」
「…今日の事も俺が忘れさせてやる。
俺が絶望から救い出してやるよ。
だから、羽美花は
俺を……俺だけを見ろ!」
そう言われた時
私の頭の中にまたあの光景が蘇った。
思い出したくないのに再び頭をよぎる。
満君と豊島さん。
私も愛されたあのベッド。
生々しい喘ぎ声と求め合う声。
私を騙して裏切った2人。
「……ううっ。」
再び体が震えてくる。
目から再び涙が溢れた。
そんな私に
「…羽美花…思い出してしまったか?
…泣くほど辛かったな…無理もない。
でも大丈夫だ…俺がついてるから…。」
氷室部長は私の涙を拭うと
「…羽美花。」
と、名前を呼んで私を強く抱き締めた。
そして
自分の額を私の額にくっつけた。
見つめられて、心臓が高鳴る。
至近距離になって逸らせなくなった。
私を狙って離さないと言わんばかりの
さっきよりさらに熱を帯びた野獣の瞳。
…でも、どうしてかな。
私は満君と付き合っていて
数時間前に別れをきりだして
逃げて来たのに。
氷室部長は私の中で
ずっと恩人だったのに
今はなぜか目の前にいる
この人の優しさとその熱に
癒されたいと思ってしまう。
飲み込まれてもいい…。
溺れてもいい…なんて思ってしまう。
忘れさせて欲しい…。
そう思ってしまいそうになる。