【完】天使の花〜永遠に咲き誇る愛を〜

「……咲輝翔さん。」

入って来たのは、咲輝翔さんだった。

ジャケットは着ておらず

ネクタイを緩めて私に近づく。


彼はその距離を縮めてきた。


「…咲輝翔さん。」

目の前にいるその人は

今、私が凄く

一番会いたくて堪らなかった人…。

謝りたくて堪らなかった人…。

伝えたくて堪らなかった人…。

聞きたくて堪らなかった人…。

抱き締めて欲しくて堪らなかった人…。


…ポロリ…ポロリと

私の瞳から涙が溢れた。

「…羽美花。」

私の名前を呼ぶ彼は

「…馬鹿……羽美花。
こんなになるまで我慢して…。」

私を見下ろしながらポツリと呟いた。

「……。」

『馬鹿』と言われても反論出来ない。

確かに馬鹿だったから。

馬鹿な事をして自分を追い込んだのは

紛れもなく私自身だったから。


何も言わずに

私は涙を溢したまま彼を見つめていた。


すると

「…藤堂から電話貰って
ここに来るまで心配した。

…動揺してばかりで
冷静でいられなくなりそうで
生きた心地しなかった。」

「…ごめん…なさ…。」

謝る私を遮るように


「…頼むから…二度と俺の前から
離れて行かないでくれ。

二度と自分を追い詰めないでくれ。

……消えて行かないでくれ!!」


そう言って彼は手を伸ばすと

「…やっと会えた。俺の…羽美花。」

そう呟きながら、私の大好きな

引き締まったその逞しい腕で

“ギュッ”と力強く私を抱き締めた。


眠っていた鼓動が

…“ドキン”…“ドキン”…と

高鳴っていくのがわかる。

私の中ではいつも落ち着いていて

余裕の表情で

妖艶に微笑む印象的なこの人が

今私を抱き締めるその腕と胸は

この季節の中で

相当緊張して、相当動揺しながら

私の為に駆けつけてくれたんだろう。

熱がこもっているように熱い。

額にもうっすら汗が滲んでいた。

シャツから漂うコロンの香り。

私の大好きな彼の匂い。

はっきりしていくような気がした。

雲に遮られていた暗い心に

光が差し込み始めた。

「…私も…会いたかった…です。」

私も大好きなその背中に腕を回した。
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