雨の夜長【短編】
お湯を沸かしながら、目をとじた。
こぽこぽと煮立つ音が雨音にゆるゆると混じっていく。
私と俊彦は同い年、今年で29才だ。
そろそろ結婚してもおかしくない。
彼に結婚を前提とした彼女がいるということは母から聞いていたし、私自身にも同じ会社に恋人がいる。
とても自然で、そう……とても自然。
でもこの関係は「私たち」にとっては不自然以外のなにものでもなかった。
なぜなら前回俊彦と会ったあの日まで、私たちは恋人同士だったのだから。
お湯が沸いた音に、私は目を開けた。
は、と息をついてコーヒーをいれる準備を始める。
キッチンのモノの配置は全くあの頃と変わっていない。元々俊彦は料理はしないから、変わっていないのも頷ける、そう思いかけて首をひねった。
もしかしたら彼女もこの家には連れてきていないのかもしれないと思った。
俊彦と最後に会ったのはもう5年も前だ。
それなのに、それなのにだ。
今日彼と会った瞬間に私の時間は巻き戻ってしまった。
毎日彼の家に入り浸って、本を読む彼を盗み見て、そんなこと俊彦にはお見通しだったから見るなよって小突かれて。
よし、と心の中だけで気合を入れて表情を固める。
大丈夫、時はもう5年も過ぎた。
時効も時効だ、たとえこの雨があの日と同じ音だとしても。