【短編】羽根月
「里~茉!お昼一緒に食べよう」

中には里茉しかいなかったのを確認してから、彼女に声をかけた。

里茉は、オレが声をかけたのに───いや、よく考えると…オレが部屋の中に入ってきたっていうのに

里茉は振り返りもせず、ただ一点を見つめていた。

「…里茉?どうし…」

オレは里茉に近づき、肩に触れた。

「きゃっ…!」

彼女は驚いてオレの手を振り払い身構えた。そして…信じられない言葉を発した。






「…誰!?」







   ド ク ン‥





オレは一瞬で青ざめた。

ワケがわからずに里茉に声をかける。

「り、里茉、オレだよ!大地だよ?!」

「わからない…貴方誰なの?」

不安そうに怯え、後退りする彼女に…オレは怖くなって

夢中で抱きしめた。

「イヤ!離してっ!!何するのよ!!!」

今の里茉は、本当にオレが誰だかわからない。知らない男に触れられるのは怖かっただろう…

だけどオレは彼女の思ってる事や、彼女の恐怖なんか知りもしない。

ただ、オレは怖かったんだ。
里茉が消える──…


「里茉…っ、里茉ぁ」

「イヤ――――ッ!!」


暴れる彼女をオレは壊れそうな程、抱きしめた…
< 10 / 53 >

この作品をシェア

pagetop