【短編】羽根月
これはごく普通の
他に理由もない、ありふれたプロポーズなんだと思わせるんだ。

純粋に彼女が好きで結婚したい男なんだと思わせろ。

里茉に病気の事を悟らせるな。

涙を浮かべながらOKを出してくれた里茉の両親の姿が、頭から離れない───

失敗は許されない。
彼女に『yes』と言わせるんだ。

オレは絶対に彼女を幸せにする…

「今やりたい事をやっておきたいんだ。今しか出来ない事…今だから価値のある事があると思うんだ」

「今だから?」

「今は里茉と結婚して…一緒にいたい。約束が欲しいんだ。もう離れないって約束…オレは里茉を幸せにするって約束」

「だ…大地の気持ちもわかるけど…時間はまだあるんだし」

「もうダメなんだよ。離れたくない。だからオレ、里茉のお義父さんにも許可取ったのに」

「…」

しばらく迷って、里茉は言った。

「籍は…まだ入れないから…ね」

「うん。ムリ。オレまだ17歳だし」

「…ぅ」

彼女がちょっと膨れた。
ムクれた顔も
可愛いよ、里茉

「オレに一生ついてきなさい」






「はい…」


   小さな

聞こえないほどの声で

彼女が返事をくれた事をオレは一生忘れない。
< 24 / 53 >

この作品をシェア

pagetop