【短編】羽根月
「大丈夫だよ」

「じゃあ、いいけど…バイトで眠くなって失敗したり、ケガとかしないでよ?」

ちょっと呆れつつも心配して里茉は言った。

「うん。気をつけるよ。今日、里茉は?塾?」

「ううん、実家に行くつもり」

「送って行こうか?」

「平気。ねぇ、時間ないわよ!遅刻しちゃうわよ?」

里茉に言われて時計を見た。

「あ!ヤベぇ」

遅刻なんてしようものなら、午前中に入ってるオバちゃんが
『交代遅いわよ!』
(だから高校生は)みたいな顔をしてさ

うるせーんだよな!

オレは慌てて立ち上がり、バッグを掴み玄関へ向かった。

そのまま出ようとして、ある事を思い出す。

「里茉ーっ!里茉!」

「なぁに?」

「行ってきますのチューして!」

オレは両手を広げ、目を瞑り唇を突き出した。

時間がなくても、『行ってきます』『行ってらっしゃい』のキスは欠かせない。

ってか絶対しなきゃ!

「ハイハイ、行ってらっしゃい」

彼女は笑いながらオレにキスをする。

そんな彼女を抱きしめて、離れても彼女を守れるように…まるでおまじないのように呟く。

「行ってきます」

そう言って家を出た。


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