【短編】羽根月
彼女の今の状況もわからないから、捜すのはさらに困難に思えた。

走る足はもつれるし、気持ちは焦るけど、思うように速く走れない事にもイライラするし

時間はドンドン過ぎていくし───

告知をした医師や、許可した里茉の両親を責めるつもりはない。

いずれは必要だったはずだ。

ただ…記憶障害のある里茉が最期までそれを理解していられるかどうか分からない。

だからって告知しないワケにもいかない…

里茉にだって
考える時間は必要なんだと──オレは無理矢理そう思い込んだ。



心底、オレの本心を言えば───最後まで知らせたくなかった。

知らないで済むなら…その方が彼女にとって幸せなんじゃないかと思ってた。

治らない、と
絶望を与えるのも嫌だった。

こんな苦しい気持ちはオレだけで十分だ。
里茉には感じてほしくない…






考えつく場所に全て行き、彼女の姿を捜して里茉の実家までたどり着いてしまった。

「大地…!」

ちょうど戻ってきた真奈の様子から、お互いに里茉を見つけられなかったとわかった。

「ゴメン、何処にもいないんだ」

「どうしよう…まさか自殺とかしてないよねぇっ?!」

「バカな事言うな!」
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