【短編】羽根月
きっと…この校舎を見て、里茉は新しい職場に胸をときめかせている。

オレと出逢う前。

なりたい仕事に就く事が出来て──夢や希望に満ち溢れていた彼女。今、里茉はその頃に戻っている。

まるでタイムマシンに乗ってココまで来たみたいに、オレとの記憶も忘れ──ジッと校舎を見つめている。

きっと想像してるだろう…
授業風景や生徒達との会話。毎日が輝いて見えるだろう景色。

そんな彼女の夢を
オレは壊した。


───ゴメン、里茉

出来る限り教師を続けさせてやればよかったんだ…それをオレが出来なくした。

もっと違う方法で、彼女に仕事をさせるべきだった?

でも…近い将来、いずれは辞めなきゃならない日が来ていたはずだし。

オレはバカで愚かだ。

何をしても
何もしなくても
彼女に対する後悔ばかりがオレに降り積もっていく。

罪悪感と
それに比例する愛情



オレはそっと里茉の手を取って言った。

「先生、帰ろう」

「…ドコへ?」

不思議そうにオレが繋いだ手を見ていた。

「家へ。先生が帰ってくるのが遅いから家族が心配してるよ…オレ送っていくからさ」

「うん…そっか、そうだね…」

「帰ろう…」




< 36 / 53 >

この作品をシェア

pagetop