【短編】羽根月
里茉の手を握りしめ
オレと里茉は家へと続く道を歩いていた。

暗い夜道。
時たま街灯がオレ達を照していた。

この先に何があるかわからないのは、オレ達の未来に似ている…

彼女は何も言わない。

取り乱す事も、混乱する事もなく…黙ってオレと手を繋ぎ歩いている。




──こんなのは嫌だ



「…キミ…どうしたの?!ドコか痛いの!?何故泣いてるの?」

「…」

里茉がオレの様子に気づき、顔を覗く。
オレは彼女の顔を見る事ができなかった。

オレは
泣いていた

涙が溢れだして止まらない


──こんなのは嫌だ…

告知されても、憶えてられないなんて

自分の人生を振り返る事も出来ず
残りの人生をどう全うするかも考えられず

自分の好きな人の事も顔も忘れてしまうなんて…こんな病気…

こんなの嫌だ…


オレは里茉の手を強く握った。


「好きだよ…一生大好き。それだけは憶えていて…な…」

オレの事、もう思い出せなくても

オレが誰かわからなくなっても

ずっと一緒に居させて
ずっと愛させて



例え今、オレの声が届かなくても



    神様



オレの代わりに里茉に伝えてくれよ───

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