【短編】羽根月
しばらくして、彼女は夜も眠れずにいる事が多くなった。

夜毎、里茉を襲う頭痛や吐き気。

薬の効き目も期待が持てず

全身を汗で濡らし、身体中に鳥肌を立たせ
痛みに耐え続け朝を待ち続ける彼女。

オレは一晩中、里茉を抱きしめてやる事しかできなかった。

言葉を発しても、多分頭痛が酷くて聞こえない。

オレは心の中で一生懸命言っていた。

『大丈夫、すぐに頭痛は消えて眠れるよ』


おまじないのように
何度も頭の中で呟く…

里茉は時折、顔を見せて懸命に笑顔を見せた。

'ゴメンね'

そう目で伝えてくる。

ゴメンな…
こんな事ですら助けてやれない!

どうしてオレは里茉に何もしてやれないんだよ?!

抱きしめてるだけで
何ができる?

奇跡なんて起きやしないのに!

ゴメン
ゴメンな…

自分に腹をたて…次第に悲しくなっていった。

──里茉を幸せにしたかった──








さらに里茉の病状が不安定になってきたので、オレはバイトを辞め
一日中、彼女の側にいるようにした。

二人で話をしたり
ご飯を作ったり

絵を描いてみたり
無くしていく記憶の代わりに

新しい記憶を
二人で刻んでいった。


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