【短編】羽根月
「…少し寒くなってきたわね…気をつけて帰るのよ?大地」
「ん…」
外気温との温度差でうっすら結露している窓ガラスを見て、里茉は言った。
先週から里茉は入院する事になった。
季節はもう秋なんだろう。
昼間と朝晩の温度差が激しいせいか、みるみるうちに彼女の体力は衰えていった。
歩くことさえ困難になってきたらしい。
オレが彼女の全てを面倒みるつもりだったけれど、病状の悪化や体力の低下で予想以上に大変な事になるだろうと
医師や里茉の両親が入院を勧めてきた。
オレは断ったが、里茉が自ら入院すると決めてしまった。
きっとオレに…
遠慮したんだ。
確かに大変だろう。
何かあった時、オレでは対処できない。
里茉は『里茉』でいることを努力していた。自分を見失わないように頑張っていた。
それが判るから、入院する事も止めなかった。
きっと病院にいれば、病気の進行も和らぐんじゃないかと考えたに違いない。
オレもそう思う。
少しでも長く生きていてほしいから、オレは出来るだけ病院に来て彼女の側にいた。
だけど
もう…一日の半分も彼女は『彼女』でなくなっている。
オレの知らない里茉
オレを知らない里茉