【短編】羽根月
しばらく考えて…オレは結局折れた。

「…ちょっとだけだぞ?」

「うんっ!」

彼女が久しぶりに全開の笑顔を見せた。

それからオレは実家へ帰り、母親にウソをついて車を借りて
また病院へ戻った。

里茉は行く気満々で着替えを済ませ、なおかつ軽く変装もしていた。

「これなら看護師さんにもバレないでしょ?」

楽しそうな里茉を見てると、あのまま外出を拒み続けなくて良かったと思った。

最近の彼女は足が弱ってて、支え無しでは歩けない。オレは目立たないようにさりげなく彼女を支え

ゆっくり歩いて病院の外へ出た。

周りを見渡し、病院の看護師や医師が見ていないとわかると
オレは彼女を抱き上げて、そのまま車まで走った。

なんだか誰かに追いかけられそうで…逃げるように車の助手席に里茉を押し込み
オレも素早く車に乗り込み走り出した。

10分くらい無言で車を走らせて、ようやく息をついた。

「は―…焦った」

「良かったね、誰にも見つからなくって」

「あ―あ…黙って出てきちゃったよ」

「ゴメンね…」

里茉は申し訳ないって顔をして下を向いた。

「悪い事したって思うんなら…今日は思いっきり楽しんでくれよな」
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