【短編】羽根月
「変じゃないよ。憶えていてくれて嬉しいもの」

「オレ、他もちゃんと憶えてるぜ?里茉と付き合いだした日とか、初めてキスした日だって憶えてる」

嬉しさのあまり興奮して、その日は眠れなかったのを憶えている。

何度も頭の中で反芻したりして…さすがにちょっとバカみたいだと思ったっけ。

…懐かしいな。

「あたしだって憶えてるわよ。全部忘れられない…」

「そんなに昔の事じゃないのに、ずっと里茉と一緒に居たみたいな気がするのは何故なんだろうな」

「不思議ね。あたしもそんな感覚があるわ…ずっと大地を知っていたような気さえするの」

〈運命の出逢い〉なんてものは信じてないけど

オレ達が愛し合ったのは偶然ではなく必然だったんだと思いたい。

だってそうだろ?

そうじゃなきゃ…まだ子供なオレは、これほどまでに誰かを愛す事なんてできなかったはずだから。

里茉だから
出逢った。

里茉だから
愛した
何もかもに意味があったんだ

「…里茉。ずっと一緒に居ような」

オレは幾度となく口にした台詞をまた彼女に言った。

だって本当にそう思ってるんだもん。

何度だって言うさ。

忘れてほしくないから何度でも。


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