【短編】羽根月
泡のように
里茉が消えてしまうような気がして

彼女の話を止めたくて

オレは里茉を抱きしめた。

「まだ時間はあるよ!明日またドコかへ行こう、100日記念日なんだ!200日記念日だって来年だって再来年だって、ずっとずっと一緒にお祝いしようよ!

またここに来てもいいしさ!」

「大地…ゴメンね…」

里茉はオレにしがみつくように抱きついてきた。

「…どんどん記憶が消えていくの…大地との思い出も

大地を愛してる記憶も薄れていく…忘れたくないのに

あたしの中から大地が消えていくのが嫌…」

「治る…里茉は絶対に元気になるよ…!」





「大地…怖い…よ…」



風の音にかき消されそうな程の小さな声で

やっとの思いで吐き出した彼女の言葉。

…初めて聞いた。

オレには一言も病気に対しての不安を訴えなかったと気づく。

こんなに彼女は不安と戦っていたのに───

告知されて…寿命を知っていたのに




「里茉…愛してる…オレはずっとそばにいるからね…」

そんな言葉しかかけてやれない。
バカみたいな抱きしめる事しかできないのは

自覚してたじゃないか


オレが頼りないばっかりに


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