【短編】羽根月
「大地に…『一生ついてこい』って、言われたでしょ…スゴく嬉しかったんだ…」

「うん」

「短い間…だったけど…一緒に居れて


…あたし幸せだったよ


大地…は…?」




『幸せだったか?』
と聞かれて

自分が幸せだったことに気づく。

オレは幸せだった

確かに幸せだったんだ





オレの涙が里茉の頬を濡らす。

「泣いてるの…?ゴメンね…もう目もよく見えない…の」

「泣いてない!オレもスゴく幸せだった!当たり前だろ!」

「よかった…心配だったの…」



──ずっと怖くて
怖くて怖くて…

里茉を抱きしめたまま顔を見る事ができなかったのに

ようやく見ることが出来た彼女の顔は穏やかで

微笑んでいたんだ
   …里茉が




   オレ達は

 何度もキスをした



一生忘れられない
最後の口づけ。

一睡もせずに
瞬きするのを躊躇うくらい彼女を見つめていた。

ゆっくりと
眠りにつく彼女の
体温を感じながら


『愛してる』
とオレは何度も言った。

安い言葉だとは思わない。
今言わなきゃ
彼女に言えなくなる



待ち望んだ夜明けが訪れても

彼女に朝が来ることは二度となかった。
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