わたしから、プロポーズ


『何も知らない』
その言葉は、胸に重く響いた。

確かに、私は何も知らない。
美咲さんとの関係も、ようやく知ったわけで•••。
それすら、寿史さんに聞かなければ、知らないままでいたのだ。

「とにかく、美咲さんが瞬爾に未練があるのは分かりました。だからって、私が瞬爾と別れることを期待しないでください。そんなつもり、ありませんから」

これ以上話をしていても、美咲さんの挑発を受けるだけだ。
付き合いきれない。
化粧室から出て行こうとする私に、美咲さんは引き止めるかの様に言ったのだった。

「気が付かない?瞬爾は、私との事がトラウマなのよ。だから、あなたに結婚を迷われて、どれだけ不安か分からないの?」

「え?トラウマ?」

「そうよ。あなたが結婚を迷い始めて、思い出したのは私との事。二度も結婚を決めた女性に振られるんじゃ、瞬爾もやってられないわね」

何て人ごとな言い方だろう。
最初に瞬爾を振ったのは、自分じゃないか。

「だとしても、そこで美咲さんに戻ってくることは、あり得ないんじゃないですか?トラウマの最初の原因は、美咲さんなんですから」

「それがそうでもないのよね。私、瞬爾に相談されたのよ、あなたとの事を」

瞬爾が美咲さんに相談をした•••?
何でそんな大事な事を美咲さんに相談したの?

化粧室のドアに掛けた手が、自然と離れる。

とその時、ヒロくんの声がした。

「莉緒ー!大丈夫か?」
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