わたしから、プロポーズ
「あら?王子様が心配して来たじゃない」
「やめてください。ヒロくんは、そんなんじゃないです」
本当は、もう少し話をしたくなっていたけれど、仕方ない。
もう出なければ。
とにかく急いでドアを開けようとした時、美咲さんが言ったのだった。
「瞬爾が言ってたのよ。諏訪さんは、あなたの王子様だって。初恋の相手ほど、綺麗に映るものよね」
これには、もう何も返さなかった。
瞬爾は、ヒロくんの事も話していたのだから。
私には何も話してくれないのに、美咲さんには話していた。
そんな私が、美咲さんに反論したって説得力がない。
「あっ、良かった。あんまり遅いから、体調でも悪くしたのかと思ったよ」
心配そうに、でも笑顔を浮べたヒロくんが、私の手を取った。
「ごめんね。心配かけちゃった」
「心配してるのは、木下部長も一緒だよ。早く戻ろう」
小さく頷き、ヒロくんの後をついて行く。
『王子様』
その言葉が、今のヒロくんには、ピッタリだ。
こうやって心配してくれるのは、昔から変わらない。
瞬爾は、そんな私たちの関係に気付いていたのだ。
きっと•••。
ヒロくんは、座敷に戻る頃には手を離してくれた。
ほんの少しの間だったけれど、その温もりは私を癒してくれたのだった。