わたしから、プロポーズ
「みなさん!僕は異動をしても、みなさんを絶対に忘れません!」
送別会もお開きになり、店の外で木下部長は酔いの勢いもあってか、泣きながら挨拶をしている。
その姿にみんなからは、笑いが湧き起こっていた。
「木下部長、いろいろとお世話になりました。これ、私からの気持ちです」
小さな茶色の紙袋には、革製の名刺入れが入っている。
いつか、部長が好きだと言っていたものだ。
「ありがとう。坂下さんのことは、絶対に忘れないよ•••」
紙袋を受け取ると、またもや大袈裟な涙を流した部長は、みんなに笑われていた。
「莉緒、少しだけ一緒に歩かないか?二次会はないらしいんだ」
パラパラとみんなが帰り始めた中で、ヒロくんが声をかけてきた。
「えっと•••」
どうしようか返事に迷っていると、ちょうど瞬爾たちも店から出てくるところだった。
盛り上がっている様で、笑い声が通りに響く。
美咲さんは程よく酔っているのか、上機嫌に笑いながら、瞬爾にピッタリとくっ付いていた。
「うん。行く」
そう返事をしてヒロくんを促すと、逃げる様にその場を後にする。
ヒロくんを選んだのは、瞬爾の楽しそうな姿が見えたから。
その姿が、美咲さんの言葉と重なっていたたまれない。
美咲さんとやり直したがっていた事
。プロポーズをした事。
そして、私に対する悩みを美咲さんに話した事。
そのどれもが、今は瞬爾に会いたくない気持ちに繋がっている。