わたしから、プロポーズ


子供の頃からヒロくんを知っているけれど、こんな温もりは知らない。
ヒロくんの胸の温もりは、今まで感じた事がなかった。

「ヒロくん•••?」

戸惑いを隠せず呼びかけると、ヒロくんは抱きしめたまま応えてくれた。

「莉緒は知らなかったろ?俺が莉緒を好きだったって」

「え?好き?私を•••?」

知らない。
ヒロくんが私を好きだったなんて、想像もしたことがなかった。
今夜は、頭の中が混乱する出来事ばかり起こる。

それ以上言葉を失っていると、ヒロくんが耳元で囁くように言ったのだった。

「言えなかったんだ。あの頃は、まだまだ子供だったし、告白をして気まずくなるよりいいかなって、そう思って言えなかった」

「ヒロくん•••。私もヒロくんが好きだったんだよ。ずっと、好きだった•••」

そう。だから、ヒロくんが地元を出て行った時、どれだけ寂しかったか。

「だからね、ヒロくんと再会した時、本当にびっくりしたの。思い出の初恋の人が、目の前にいるんだから」

私がそう言うと、ヒロくんはゆっくりと体を離した。

「俺も驚いた。それと同時に、思い出したよ。莉緒を好きな気持ちを。だから、ショックだったな。まさか、婚約者がいたなんてな」

ヒロくんが眉を下げて笑う笑い方は、寂しさを隠している証拠。
それも子供の頃から変わらない。

「ごめんね。言えなかったの。実は結婚を迷ってて•••」

「迷ってる?」

「うん」

今、分かった。
瞬爾が美咲さんに、私との悩みを相談した理由が。

やっぱりそれは、美咲さんに少なからず心の拠り所を見出しているからだ。

私もヒロくんに頼ってる。
だから今、瞬爾への悩みを聞いて欲しいと思ってる。
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