わたしから、プロポーズ
やっぱり見られていたのか。
「ヨットハーバーへ行ったの。昔の話をしただけ」
「本当か?」
まるで信用していない顔で、瞬爾は冷たい視線を向けたままだ。
「瞬爾こそ、美咲さんの事を何で口止めしてたの?海外赴任の話だって黙ってるでしょ?」
これには瞬爾の顔色が変わったのが分かった。
海外赴任の話を知っていることに、驚いているのだろう。
「何で、海外赴任の話を知ってるんだ?」
「遥から聞いたの。遥は寿史さんから聞いたみたいだけど」
すると、瞬爾は顔をしかめた。
「また寿史か。あいつ•••」
「ねえ、何でそんな大事な事を黙ってたの?美咲さんの事だってそう。私たち、結婚するんだよね?」
思わず腕を掴んでしまったけれど、その手はすぐに瞬爾に取られてしまった。
「結婚?その質問は、俺がしたいくらいだよ。莉緒が迷ってる事くらい分かってる。海外赴任の話を聞けば、それは吹っ切れるのか?」
「それは•••」
それを言われると、言い返せない。
「ますます迷われると分かってたし、まだ正式に決定したわけじゃないんだ。話す必要はないだろ?」
「美咲さんの事も?話す必要はなかったって?もう会わない人ならともかく、頻繁に会う人なんじゃない。それを黙ってるなんて、やましい気持ちがあるからじゃないの?」
売り言葉に買い言葉だとは分かっている。
だけど、今までにないくらい突き放す様な瞬爾の言い方に、感情的になってしまっていた。
それは瞬爾も一緒なのだろうか。
「やましい?それは莉緒の方だろ?ヒロくんとの再会に、やましいところがあるから、俺に黙ってたんじゃないのか?」
瞬爾の言う通りで、私はヒロくんとの再会を後ろめたく思っていた。
それは、何をしたからなどという理由ではなく、自分の気持ちが後ろめたかったから。
結婚に迷い始めた上に、初恋の人との再会に胸を踊らされた。
それを、瞬爾に言えるはずもなかった。