わたしから、プロポーズ
黙ったままの私を、瞬爾はきつい顔で見るだけだ。
「教えてよ。美咲さんに、瞬爾からプロポーズされた事があるって聞いたのよ。今でも吹っ切れてないの?ゆうべは美咲さんと一緒だったの?」
すると、瞬爾は落ち着いた口調で言ったのだった。
「莉緒も答えろよ。この際だから、お互い気持ちをハッキリさせないか?」
ハッキリさせる•••?
確かに、いつまでも気まずい雰囲気のままでいるわけにはいかない。
この心のモヤは、瞬爾と向き合う事で取れるかもしれないのだから。
それに、瞬爾を好きな気持ちも嘘ではない。
それは、伝えなくては。
わを
「私ね、ヒロくんの事は、すっかり思い出になってたの。だって10年近く前に会ったきりよ?」
黙って聞いてくれる瞬爾に、偽りのない気持ちを話そう。
今はそう思う。
「だけど、瞬爾との結婚に迷い始めて、懐かしい初恋の人と再会して、正直胸がときめいた。ゆうべね、ヒロくんに言われたの。私が結婚を迷っているのは、結婚に夢を見ているからだって」
「夢?」
「うん。結婚後にあるリアルな毎日に、気付いてなかった。お互い仕事をバリバリにこなして、夜は抱きしめ合って。そんな生活を夢見てただけなの」
あの日、和香子に会ったのは正解だった。
お陰で、自分の中にある隠れた気持ちに気付けたのだから。
「そうか。だったら、俺たちは最初から見ているものが違ってたんだな」
瞬爾は寂しげな笑顔を浮かべた。
「俺は、仕事から帰ったら奥さんに出迎えてもらってって、そういう毎日を夢見てたから。だけど、俺が思う以上に莉緒にとって、仕事は大事なんだな」
知らなかった。
瞬爾が結婚に対して、そんな夢を持っていたなんて。
思えば私たち、結婚についての話を、まともにした事がない。
だから、お互いの気持ちを知らないままだったのだ。
「何やってんだろうな、俺たち」
ふいに瞬爾が笑った。
「お互いの悩みを、それぞれの好きだった相手に相談するなんてな」
「うん•••」
そう言われればそうだ。
どうして私たちは、過去に好きだった人に相談したのだろう。
「莉緒、もう一回聞くけど、ゆうべは何もなかったのか?」
それには小さく首を横に振った。
「告白された。それから、右手にキスも•••」