わたしから、プロポーズ
「莉緒に来てもらって落ち着いた。ありがとう」
和香子は、ようやく小さいながらも笑顔を浮かべた。
「良かった。最初は本当にビックリしたもの。だけど、今日も旦那さんは不在なの?」
「うん。毎日よ。今日も、私にこんな事をした後に多分、浮気相手のところに行ってるはず」
なんて切ないのだろう。
今日、この家に来て感じた違和感は、生活感がない事だと気付いた。
部屋全体に活気がないのだ。
一見、きちんと整理されている様に見えるけれど、そうではない。
まるで、モデルハウスの様に人の気配を感じないのだ。
「前に、遥と二人で来てくれたでしょ?あの時も、本当は寂しくて遥に連絡を取ったの」
「じゃあ、あの時から?だけど、あの時は幸せそうだったのに」
すると、和香子は弱々しく笑ったのだった。
「単なる見栄よ。幸せな妻を演じてただけ。あの日も本当は、彼は帰って来なかったから。それにしても、莉緒が来てくれた事は、本当に嬉しかったの」
「私が?」
「うん。だって、仕事で一緒の頃は、一番話かけにくい人だったから」
これには、思わず苦笑いだ。
さっき言われた壁というものを、作っていたからだろう。
それに、当時は私も和香子とは合わないと感じていたのだから。
「だけどね、憧れだったのよ。いつだって凛としていて、素敵な課長と恋人同士で。だから、莉緒は幸せになってね」
「ありがとう。だけど、和香子だって旦那さんとやり直すつもりなのよね?私で良ければ、いつだって話を聞くから」
だけど、和香子は首を横に振ったのだった。
「ううん。私、離婚するつもりよ」