わたしから、プロポーズ


「本当にありがとう、莉緒。遥にも、話してくれていいから。もう一度話す気力がないし」

苦笑いで玄関先まで見送ってくれる和香子は、すっかり身なりも整えて最初よりは清々しい顔をしている。

「分かった。だけど、遥も心配すると思う」

そう言うと、和香子は肩をすくめた。

「莉緒は、絶対に幸せになってね。また、連絡する」

和香子に小さく手を振られ、スポーツバッグを肩に掛け直すと、自宅までの道を急ぐ。
このバッグを、和香子が気付かないわけがない。
だけど事情を聞かなかったのは、優しさなのだと思う。
辛い思いをしている和香子は、私の異変には見て見ぬ振りをしてくれたのだ。

「和香子と、もっと早く仲良くなりたかったな。でも、それは私のせいか•••」

壁を作ってたのでは、仲良くどころじゃない。
とにかく、瞬爾ともう一度話し合わなければ。

はやる気持ちを抑え、駅までの道を急ぎ足で向かっていると、背後からクラクションの音がした。

振り向くと、ヒロくんが運転席から顔を出している。

「ヒロくん!?よく、私って分かったね。どうしたの?」

まさか、こんな場所で出会うとは思っていなかっただけに、驚きで声も大きくなる。
すると、ヒロくんは顔をしかめたのだった。

「どうしたのは、こっちのセリフだよ。莉緒こそ、何だその荷物は?」

「あー、これ?実は•••」

瞬爾とのケンカと、和香子の話をすると、ヒロくんは小さく笑みを浮かべた。

「いつかの友達、そんな事情があったんだな。人ってのは、本当分からないよな」

「うん。そうなの。だから、今からきちんと瞬爾と話し合おうと思って。ヒロくんにも、言われたもんね」

大丈夫。
きっと、今までの私たちに戻れるはず。

「じゃあ、乗っていけよ。送るから」

「本当に?ありがとう!」

良かった。
瞬爾が戻っているかは分からないけれど、早くも戻りたかったのだ。
ヒロくんの優しさに素直に甘えると、車に乗り込んだ。
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