わたしから、プロポーズ
「課長と話し合うきっかけになったのも、友達の影響か。やっぱり既婚者の話は説得力があるんだな」
ハンドルを握るヒロくんは、呟く様にそう言った。
「うん。和香子は、そういう意味では先輩だから」
最初に和香子に会って感じた結婚生活への虚しさは、きっと未来への不安だったのだ。
結婚をする事で、否が応でも変わる自分の生活への不安を、『主婦業』のせいにしていた気がする。
「だけど、莉緒も人がいいな。課長、もしかしたら、元カノと寝たのかもしれないんだろ?」
「うん。まあ•••」
それは、さすがに受け入れがたい現実だけれど、それほどまでに瞬爾を追い詰めたのは自分だ。
本気でないなら、ゆうべの事は忘れるつもりだった。
「まさか、許すつもりじゃないよな?」
ヒロくんは車を走らせながら、どこか怖い声でそう言う。
「一応、勢いだったんなら、もう忘れるつもりなんだけど」
それでは、甘いと言われるだろうか?
だけど、瞬爾とは前向きな話し合いをしたい。
だから、必要以上に問い詰めるつもりはないのだった。
「そんなのはズルイだろ?それなら、莉緒だって課長にお仕置きする必要あるよな?」
「え?ヒロくん•••?ねえ、道、違うよ」
お仕置きって何?
それに、いつの間か車は自宅とは反対方向を走っている。
「だって、莉緒がちゃんと誘導しないからだよ。俺、莉緒と課長が住んでる場所なんて知らないよ」
まるで、感情が無くなったかの様に、ヒロくんは真顔で車を走らせている。
そして、ようやくヒロくんの様子がおかしい事に気付いたのだった。