わたしから、プロポーズ


一人になり、雑踏の中を掻き分けている時は良かった。
だけど、ひとけもまばらになり一人になると、後悔と切なさが一気に込み上げてきた。

どうしてヒロくんは、突然キスをしてきたのだろう。
もし、和香子の家からの帰り道、偶然会わなければ、こんな事にはならなかった。
それに、軽々しく送ってもらわなければ良かったのだ。

今思えば、木下部長の送別会の夜から、ヒロくんを疑わなければいけなかったのかもしれない。
抱きしめられた事や、手にキスをされた事にときめいた自分への罰だったのだろうか。

「だけど、それだけ信じてたんだよ」

涙が込み上げてきて、必死でそれを堪える。
ヒロくんに裏切られた悲しさと、初恋の人にキスをされて、瞬爾にあわせる顔がない。
その二つのやりきれない思いに、涙がこぼれそうになる。

本当なら瞬爾と、話をするつもりだった。
だけど今さら、あわせる顔がない。

ヒロくんとの再会を、ただ懐かしむだけにすれば良かったのに、ときめいたのは私。
そして、瞬爾との結婚を迷ったのも私。
全ては自業自得だ。

私は罰を受けたのだと思う。
散々、自分の気持ちばかりを瞬爾に押し付けた罰を。

そして、ヒロくんに甘えた罰を。

力ない足取りで、自然に向かったのは実家だった。
ただのケンカの勢いで出てきたのなら、到底帰れる場所ではないけれど、もう分かるから。

きっと、私と瞬爾は結婚は出来ない。
それが分かるから•••。
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