わたしから、プロポーズ
別れるだなんて、まるで覚悟をしていなかった。
ほんの数時間前、瞬爾から言われたのは距離を置くという事。
それを私の中では、頭を冷やす意味だと理解していたのだ。
「距離を置くんじゃなかったの?別れるって•••」
動揺を隠せない私は、別れ話を素直に受け入れることが出来ない。
そんな私の気持ちに気付いていないはずはないのに、瞬爾はいたって冷静に答えたのだった。
「中途半端な事は、やめるべきだなと思ったんだよ。俺も、莉緒に執着し過ぎてた部分があったと思う。もう一度、考え直したいから」
その言葉に、もう何も言い返す事は出来なかった。
もしかしたら、瞬爾が一番望んでいるのは、私から離れる事なのかもしれない。
それならば、今さら私が引き止めたって無駄だ。
「ごめんな。だけど莉緒は、会社では変わらず俺の部下の一人だ。いつだって力になるから」
「ありがとう•••」
『上司と部下』
それが私たちを繋ぐ、ギリギリの関係になってしまった。
「それじゃあ、戻ろうか?俺も帰るから」
瞬爾は、元来た道を歩き出したけれど、その後をついて行く事は出来ない。
「ごめん、瞬爾。一人で行って」
隣に並ぶ事なんて出来ない。
ましてや、後ろを歩く事なんて出来ない。
だって、その背中を見てしまったら、きっと引き止めたくなるから。