わたしから、プロポーズ


瞬爾は、少し躊躇する様な仕草を見せたけれど、黙ってそのまま戻って行った。

一人残されたこの場所で、ただ呆然と立ち尽くすだけの私は、無意識に携帯を取り出すと遥に電話をかけていたのだった。
泣き言を言えば、遥は何て返してくるだろうか。
もしかしたら、喝を入れてくるかもしれない。
それでもいい。
だから、今は話を聞いて欲しかった。

「もしもし莉緒?」

数コール後、電話に出てくれた遥の声に張り詰めていた糸が切れたのか、涙がとめどなく溢れてきた。

「遥•••」

声にならない声で、遥の名前を呼ぶのがやっとだ。

「どうしたの?莉緒、何があったのよ!」

心配そうな遥の声が聞こえる。
だけど、涙が邪魔をして、言葉が出てこない。

「莉緒、今どこにいるの?私ね、会社近くのカフェにいるの。来れる様ならおいでよ。話を聞くから」

「うん•••」

良かった。
やっぱり遥に電話をして正解だった。
今は一人になりたくない。
だけど、誰でもいいわけじゃなかった。

遥から聞いたカフェに向かって、なかなか進まない足取りで向かう。
大きな通りに出ると車の往来が激しくて、つい目は瞬爾の車を探していた。

ここをもう走っているはずはないのに、同じ車種の車を見ると思わず立ち止まる自分が情けない。
溢れそうになる涙を堪え、遥の待つカフェに着くと、すぐに私を呼ぶ声がした。

「莉緒!こっちよ」
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