わたしから、プロポーズ
そうだ。
和香子からの家の帰り、瞬爾に話すつもりだった。
ただ好きだから、だから側にいて欲しいのだと。
「じゃあ、莉緒も頑張らないとね」
「え?頑張るって?」
遥の言葉には、さっきから置いてけぼりだ。
もしかすると、私以上に私を知っているのは、遥なのかもしれない。
感心しながら次の言葉を待っていると、遥は横目で睨む仕草をした。
「さっきから、人の言葉を拾うばっかりなんだから。少しは自分で考えなさいよ」
そう言って遥は席を立ち上がった。
「ちょっと遥、どこに行くの?帰るの?」
情けないけれど、まだ一人にされては心細い。
一緒に立ち上がりかけた私に、遥は冷たく言ったのだった。
「お手洗いよ。戻ってくるまでに、考えなさい」
スマートに身を翻した遥を見送ると、大きなため息と共に座り直す。
すると、それまで黙って見ていた広田さんが笑ったのだった。
「遥は、本当に坂下さんが好きなんだな。ちょっと疎外感を感じちゃったよ」
今まで、ただの同じ部の先輩くらいしか見ていなかったけれど、広田さんは結構爽やかな人だ。
特に笑った顔は甘さもある。
なんて、友達の彼氏だと分かった途端に、見る目が変わる自分にも呆れてしまうけれど。
「遥は、私にはいつも誠実なんです。私、どんな風に頑張ったらいいんですかね•••」
ほとんど独り言の様に言うと、広田さんが優しく言ったのだった。
「課長は多分、坂下さんが悩む原因になったものを解決してくれない限り、きっと受け入れてはくれないと思うんだ」
「悩む原因ですか?」
それは、どういう意味だろう。
私が悩む原因って•••。
「坂下さんは、結婚後の生活が不安だったんだよな?だけど、課長と結婚する限り、坂下さんは仕事を辞めないといけなくなるはずだ。大きく生活が変わるのは、覚悟しないと」
それは、間違いない。
瞬爾は海外赴任をする可能性が高いのだから。
そうなれば、仕事どころではないのは当然だ。
「坂下さん、F企画のプロジェクトを知っているだろう?それは、二課とも共同で進めるんだ。一つ、大役を任されてみないかな?」