わたしから、プロポーズ
「坂下。ちょっと」
瞬爾から『別れ』を告げられ、初めての出勤。
課長デスクに瞬爾がいて、私が二課の島にいる。
それは、今までと変わらない風景のはずなのに、流れている空気の変化に気付いていた。
近い様で遠い瞬爾が、そこにいたのだった。
そんな切なさを胸にしまい、寿史さんに声を掛けられ会議室へ向かった私は、昨日、広田さんから聞いたF企画の現場担当を言い渡されたのだった。
「現場責任者は瞬爾だ。そして、F企画の担当責任者は美咲さん。今回、坂下が選ばれたのは、総合判断で適任だと認められたからなんだ。出来るよな?私情は禁物だ」
「大丈夫です。私たち、別れたので」
そう言うと、寿史さんは驚いた様に目を丸くした。
どうやら、何も知らないらしい。
「瞬爾からは、聞いてないんですね」
「あ、ああ。そこまで仲良しこよしじゃないからな。それにしても、何で?ていうか、驚くくらい普通だな」
「だいぶ、吹っ切れましたから。それに、目標も出来たし。別れた理由、聞いたらきっと呆れますよ」
寿史さんもただの上司ではない。
それに、ヒロくんの事もケジメをつけないといけない。
自分なりの意味があって、寿史さんにも話をしたのだった。
「なるほどね。それにしても、お前たち二人は仲良く元カノだの、初恋の人だのに会うんだな」
想像通り、寿史さんは呆れた様にため息をついた。
そして、苦笑いを浮かべたのだった。
「まあ、俺がどうこう言う事じゃないけどな。仕事をきちんとしてくれればいい」
「もちろんです」
大丈夫。
もう迷わない。
自分の気持ちは、はっきりと見えるから。
瞬爾に、もう一度受け入れてもらえるかは分からない。
だけど、最初の気持ちを思い出そうと決めたのだった。
瞬爾に憧れていた頃の気持ちを。