わたしから、プロポーズ
「それじゃあ、今回のプロジェクトの説明をするな」
小さな会議室で、たった四人での打ち合わせ。
ファッションショーということもあり、演出にはぬかりがあってはいけないらしい。
といっても、演出をするのが仕事ではない。
その為の機械準備やセッティングが仕事だった。
聞けば聞くほど、仕事の重大さを感じつつも、心は別方向にも向いてしまう。
さっきの廊下でのやり取りが思い出されてしまい、ついそれを考えていたのだった。
私が吹っ切れていると思った瞬爾は、戸惑っていた。
それは、どうしてだろう?
距離を置こうと言ったのも、別れようと言ったのも瞬爾の方なのに、あれではまるで私に未練を期待しているみたいだ。
それを考えていた時、ふと広田さんに言われた言葉を思い出す。
瞬爾は内心燃えているはずだと。
私を取り戻そうと思っていると。
それならば、わざわざ別れるだなんて、言わなければいいのに。
やっぱり、瞬爾の『本音』も分からない。
気が付いたら、一人悶々とそれを考えていて、慌てて打ち消した。
今は、仕事に集中しなくては。
それに瞬爾の本音は、自分の気持ちを伝える時に聞けばいい。
どちらにしても、その本音に関係なく私は瞬爾に想いを届けるのだから。
「じゃあ、主な動きはペアでやるから。俺と坂下。それから、広田と来島でお願いするな」
「えっ!?」
思わず声を上げ、慌てて小さくなる。
そのペア決めは、まさか瞬爾が考えたのか?
まるで出来た組み合わせに、動揺は隠せない。
すると、瞬爾はニヤリと意地悪く言ったのだった。
「俺とペアは嫌か?さっきは、厳しくお願いしますって言ったろ?」
「いえ、嫌じゃないです。お願いします•••」
そうだ。
思い出した。
そもそも瞬爾は、こういう意地悪をする人だ。
少しずつ思い出す、過去の思い出。
そして思い出す過去の私たち。
未来は白紙になってしまったけれど、過去は間違いなく色付いていた。
それを思い出せるだけでも、十分楽しい。