わたしから、プロポーズ
F企画のビルは、モダンなオフィスビルの5階にあった。
フロア内には他社も入っていて、賑やかな雰囲気だ。
「莉緒•••じゃない、坂下は初めてだもんな。緊張するだろ?」
「はい」
なんて、本当は全然大丈夫。
瞬爾がいてくれるなら、怖いものなんてないから。
だけど、その気持ちはまだ伝えない。
全ては、このプロジェクトを成功させてからだ。
瞬爾に気付かれない様に小さく深呼吸をすると、気合いを入れF企画へ向かったのだった。
オフィス内へ着くと、入口で受付の女性に案内され、横の会議室へと入る。
すると、遥たちも既に到着していて、資料を出しているところだった。
そして、程なくして美咲さんと女性が一人入って来たのだった。
「今回は、よろしくお願いしますね。こちらは、チーフの牛島さん。私の右腕よ」
美咲さんがそう紹介してくれた牛島さんは、年齢は30代前半くらいか。
肌が透き通っていて、目鼻立ちのハッキリとした美人だ。
ショートカットのヘアスタイルが、まるで嫌みを感じさせなかった。
「初めまして、牛島です。早速なんですが、坂下莉緒さんはどなたですか?」
事務的な笑顔を浮かべ挨拶だけすると、牛島さんは私と遥を見比べた。
「あの、私です」
おずおずと手を上げると、牛島さんは口角を上げて笑顔を作ったのだった。
「じゃあ、坂下さんは私と別室で打ち合わせをしましょう」
どうやら、例の仕事の打ち合わせらしい。
いよいよかと思うと、心細さもこみ上げてくる。
だけど、美咲さんの小馬鹿にしたような笑顔に苛立ちを覚え、もう一度気を引き締め直したのだった。
「よろしくお願いします」
瞬爾のどこか心配そうな顔に小さな笑みを返すと、牛島さんの後について部屋を出たのだった。