わたしから、プロポーズ
瞬爾たちがいる会議室とは反対側の小さな会議室へ案内された。
そこは小窓がついていて、外を見ることが出来る。
それだけでも、随分と開放感を覚えたのだった。
「座って。それにしても、伊藤課長もどうして、あなたにこの担当を許したのかしら」
椅子に座るなり、牛島さんはため息をついた。
どうやら、私が担当なのが不満らしい。
「私、知ってるのよ。あなたたちが恋人同士だって事を。この仕事は、毎年我が社の大きな仕事なの。私情は挟まず、真剣にやってもらえる?」
嫌みな雰囲気は一つもないけれど、代わりに冷たさは人一倍だ。
「分かっています。私たちの会社にとっても、大事な仕事ですから」
瞬爾の海外赴任がかかっているのだ。
それに、私も自分の気持ちを伝えると決めている。
この仕事には、全てを賭けているのだから、手を抜く事だけは絶対にしない。
「それならいいんだけど。今回、坂下さんにお願いするのは、ショーで流す曲のお手伝い。あなたたちの会社の製品を使って、ランウェイで流すの。とても便利な製品があるって聞いたから」
仕事の話になればこちらも言える。
思わず身を乗り出して説明をしていた。
「そうなんです!音質も重厚で•••」
だけど、話もそぞろに牛島さんに遮られたのだった。
「製品の話は、伊藤課長から伺っています。坂下さんには、違う仕事を頼む事になるから」
「違う仕事ですか?」
「そう。大まかには聞いていると思うけど、音響を担当するのは外部の方なの。癖のある男性で、久保田さんという方。その方と組んでもらうから」
「久保田さん•••」
その人なのか。
わざと意地悪い事をして、担当外しをする人は。
話の本題に入り、背筋が伸びる思いをしたのだった。