わたしから、プロポーズ
それは、脅しではなく本当の事だろう。
覚悟をして頷いた私に、牛島さんは続けた。
「久保田さんは選曲にこだわりがあって、マイナーな名曲ってやつをよく使うのよ」
「なるほど•••」
「それも、今や廃盤になってマニア向けの店にしか置いて無いようなやつをね」
それをファッションショーのランウェイで流すのか。
違和感がある様にも見えるけれど、今まで成功しているのだから、そのやり方は間違っていないのだろう。
「でね、坂下さんにその楽曲を見つけてこいと言ってくるはずなの」
「私にですか!?」
情けない事に、JPOP以外の知識は皆無に等しい。
それなのに、マニア向けの音楽の知識を要求されたのでは、自信がなかった。
その自信の無さが気付かれたらしく、牛島さんに苦笑いをされた。
「とりあえず、久保田さんとの打ち合わせの日まで、店をネットで調べられるだけ調べて。ジャンル問わず、CDやレコードを売ってる店をね」
「レコードもですか!?」
思わず声を上げた私に、牛島さんは声を出して笑った。
「そうよ。それにしても、坂下さんて面白いわね。表情が豊かというか」
「は、はぁ•••」
それなら牛島さんは、意外と親しみ易い。
冷たい印象だったのに、話をしてみると溶け込み易い人だ。
「とりあえず、坂下さんは久保田さんを攻略する為に、まずはあらゆる店を頭に叩き込んでちょうだい」
打ち合わせは終わりとでも言わんばかりに、牛島さんは立ち上がった。
「はい•••。頑張ります」
漏れそうになるため息を飲み込んで、私もゆっくり立ち上がる。
仕事といっても、今回は想像以上にややこしそうだ。
だけどこれも、瞬爾へ気持ちを伝える為。
それを合言葉に、自分を奮い立たせるのだった。