わたしから、プロポーズ


「よろしくお願いします」

まさに、運命の顔合わせ。
F企画とのプロジェクトが成功するかどうかは、この人との関係に懸かっていると言っても過言ではない。

そう。久保田さんとの顔合わせだ。

緊張は最高潮に達し、自分の足元が見えるほどお辞儀をした私を、久保田さんは無視した。

「さあ、さっそく始めようか。内田さん、今回も音響に関しては、全面的に任せてくれるよな?」

「もちろんです。お任せします」

嫌味とも取れる笑顔を浮かべた美咲さんが、私をチラリと見たのだった。
やっぱり、今回の担当の件は嫌がらせか。
そう思うと、変に肩に力が入る。
絶対に失敗はしないと改めて誓ったのだった。

「じゃあ坂下さん、こっちに」

足早に別室へ向かう久保田さんに遅れまいと、小走りでついて行く。
そんな私に、遥が小さく手を振った。
そして瞬爾も、笑顔を向けてくれている。

「あの•••、久保田さん。よろしくお願いします」

もう一度そう言ったけれど、やっぱり無視をされてしまった。
それにしても久保田さんは、見た目はそれほど威圧感を感じない。
むしろ、インテリ系なイケメンだ。

黒づくめのスタイルで、スラッとした長身。
黒髪は短く切られていて、涼しげな印象のルックスを、よりインテリに見せていた。

私たちが仕事をする場所は、実際にショーが行われる所だ。
まだ何の飾りもない中で、ランウェイだけが設置されている。

「実際に音楽を流しながら確認していくから」

「はい!」

とにかく頑張ろう。
それに久保田さんは愛想こそ悪いけれど、そんなにクセがある人ではない。
そう気を引き締めた時だった。

「あんたさぁ、伊藤課長の恋人なんだってな。俺、そういうふざけた感じ大嫌いなんだ。私情が少しでもあるなら、今すぐ辞めてもらっていいか?」
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