わたしから、プロポーズ
「えっ?」
まさか、今から本性が出るのか。
戸惑う私を、久保田さんはチラリとも見ない。
それどころか、機械を設置しながら続けたのだった。
「で?どうなの?辞める?続ける?」
『どうでもいい』と言いたそうな口ぶりに、こちらは怒りさえ込み上げる。
「辞めません。私情など一切ないですから」
なんて、まさに嘘も方便。
ほとんど私情の固まりだけれど、この人の前では嘘も許される気がする。
「本当かなぁ」
「本当です。それに、私たちは別れましたので」
すると、久保田さんはチラリと私を見て黙ったのだった。
全く、瞬爾との関係をここまで話さないといけないのも歯がゆい。
だけど、今は感情を抑えなければいけないのだから、忍耐力も身につきそうだ。
久保田さんは、オーディオをいじりながら、何か音楽をかけ始めた。
これが、牛島さんの言うマイナーな音楽か。
確かに聞いた事はないけれど、アップテンポの明るい音楽だった。
「久保田さん。この機械は、ここがボリュームを調整するところなんです」
何やらボタンをいじりまくっていた久保田さんに、確信を持ってアドバイスをしたつもりだった。
だけど、久保田さんは眉間に深いシワを寄せて睨んだのだった。
「俺が、事前に確認もせずに勝手にいじってるとでも思ってるのか?」
「いえ•••。そんなつもりは」
どうやら、久保田さんの地雷は至るところにあるらしい。
そして今、それを踏んだ様だった。
「それに、今は微妙な音質を調整しているんだ。ボリュームじゃない」
「はい。すいません」
とりあえず素直に謝ると、深いため息をつかれたのだった。
「あんたはさ、俺の言う事だけを聞いとけばいいんだよ」
吐き捨てる様にそう言うと、久保田さんはオーディオをいじりを続けたのだった。