わたしから、プロポーズ
その予感は見事に的中して、久保田さんは私の目の前まで大股で詰め寄った。
眉間のシワは、これほどまで深くなるのかと思うほど、険しい表情を浮かべている。
「あんたに何が分かるんだよ。偉そうな口をきくのは、立派に仕事をやり遂げてからにしろ」
そんな投げやりなセリフは、私を威嚇するには十分だった。
だけど、こちらも嫌というほど営業畑を経験している。
顧客からの威嚇は、今に始まった事ではない。
「お言葉ですが、今まで仕事は立派にやり遂げてきました。久保田さんがおしゃっている意味は、久保田さんが満足する仕事をしろって事ですよね?」
このプロジェクトが終わる頃には、私の眉間にはシワが出来ていると思う。
真っ直ぐ視線をそらさないでいると、久保田さんは身を翻し仕事を再開した。
それも、まるであてつけの様に、ボリュームを大きくして音楽を確認している。
「あの、久保田さん」
歩み寄り、少し大きめな声で話しかけた。
「何だよ。まだ文句あるのか?」
その言い方は、まるで私が突っかかっているような言い方だ。
だけど私にしてみれば、久保田さんの方が突っかかっている。
「編集をされてるんですよね?ランウェイを歩くには、テンポが速すぎると思うんですけど」
さっきから、トーンの調整をしているのは分かるのだけれど、テンポはまるで調整していない。
ファッショショーはあまり見ないけれど、それでもこのテンポでは歩くというよりは小走りになりそうな事くらいは分かる。
すると、久保田さんは何も言わず黙々と編集を続けた。
無視!?
相手にされないくらいなら、嫌みを言われる方がマシだ。
一体、私は何の為にいるのだろう。
改めてそれを感じて、これみよがしにため息をついたのだった。