わたしから、プロポーズ
「莉緒〜!お疲れ様」
長い一日が終わり、ようやく久保田さんと二人きりの時間が終わったところで、遙が声をかけてきた。
「あ、遙。お疲れ〜」
疲れが一気に押し寄せてきたせいで、元気いっぱいの遙に比べ、こちらはげっそりだ。
「お疲れみたいね、莉緒」
苦笑いの遙に、私は顔を歪めた。
「最悪よ、本当に。一癖も二癖もある人なんだから。お陰で全く仕事にならない」
思わず出た愚痴に、遙がすかさず反応した。
そして、廊下の隅まで私の腕を引っ張ったのだった。
「私ね、この間ある事に気付いたのよ」
遙は声を潜めて話す。
ある事とは何か。
首を傾げた私に、続けたのだった。
「うちの会社って、海外事業部があるじゃない。莉緒も知ってるでしょ?」
「うん。海外部署とのやり取りをするところよね?」
「そう。それに、海外顧客ともやり取りをするんだけど、もし課長が今回の海外赴任のチャンスを逃した場合、そこに異動になる確立が高いらしいの」
それは、つまりプロジェクトが失敗した場合の事か。
海外には赴任出来ないけれど、関わりを持つ部署には配属されるという事らしい。
「それがどうかしたの?」
「だから、莉緒が嫌な人相手に無理をする必要はないのよ。もし、プロジェクトが失敗でも、いずれは課長は海外に赴任するはずよ。それに、それまでは海外事業部にいるだろうし。莉緒が課長と結婚しても、営業部に残れる確立が高いって事じゃない」
「えっ?」
思わぬ言葉に、目を丸くした。
「だってそうでしょ?部署が違うんだから。莉緒がすぐに仕事を辞める必要はなくなるのよ。だから、無理する必要はないって」
遙の言葉は、少なからず私に影響した。
本当は、瞬爾の為に成功させたい。
そう思っているのに、一瞬頭をよぎったのは、瞬爾が海外に赴任出来なかった場合の事。
私は、このまま仕事を続けられる?
そんな自問を浮かべた時だった。
「あら、お二人ともお疲れ様」
美咲さんの声に、一気に現実に引き戻されたのだった。