わたしから、プロポーズ
美咲さんの甘い声が漏れると共に、二人のキスの音が響いている。
瞬爾が美咲さんを抱きしめた瞬間、いたたまれずにその場を走り去ったのだった。
美咲さんが見せたかったもの。
それは、これだったのだ。
最初から、瞬爾とのキスを見せつけたかったのだ。
廊下を走りながら、抑えていた涙が溢れ出す。
ここは大事なショーがある場所だ。
私情は禁物。
自分にそう言い聞かせてみても、涙は溢れるばかり。
走りながら、たまたま目についた非常口の扉を開けると、そのままその場へ座り込んだ。
「何、あれ•••」
嫌でも鮮やかに蘇る二人のキスシーン。
聞こえてくるキスの音。
目を閉じ耳を抑えても、どんどん蘇ってくるのだった。
「いやっ•••」
これが全ての報いなら、もう瞬爾を諦めろと言われているのだろうか。
散々、自分の思いで振り回した瞬爾への罰なのだろうか。
例えそうだとしても、涙が溢れて止まらない。
それが、キスシーンを見てしまった事への悲しさだけではないと分かっている。
諦めきれないから。
二人のキスを見た後ですら、私の瞬爾への想いは変わらない。
だからこそ、辛いのだった。
好きな人が、自分以外の女性とキスをしていた。
それは、胸をえぐられるほど辛く、涙が止まる事はなかったのだった。