わたしから、プロポーズ
「坂下、大丈夫か?」
ショーの準備も着々と進み、相変わらずまともな仕事をさせてもらえない中で、久しぶりに瞬爾から声をかけられたのだった。
久保田さんとマンツーマンで仕事の私は、みんなと入りの時間が違う。
『久保田時間』で進む私は、プロジェクトが始まってから、最初の日以外は瞬爾たちに会う事がなくなっていたのだった。
「あ、課長。お疲れ様です」
正直、瞬爾の顔を見るのは切ない。
だから、会えない時間が逆にホッとしていたのだけれど、今日はとうとう声をかけられてしまった。
それでも、やっぱり胸はときめいてしまう。
切なさを感じつつも、瞬爾の声が聞けただけでこんなにも嬉しい。
だけど、それを素直には出せなかった。
「顔が疲れてるじゃないか。ハードなのか?ずっと様子を見れなかったから、気にはなってたんだ」
「大丈夫です。ありがとうございます」
気にしてくれていたんだ。
それが『上司』としてだと分かっているけれど、恋心を加速させるには十分だった。
そして軽く会釈をし、その場を去ろうとした私の腕を瞬爾は強く掴んだのだった。
「課長?」
振り向くと、心配そうに眉を下げている瞬爾がいる。
「本当に大丈夫なのか?坂下は、いつも無理をするから」
「課長•••」
言ってしまえたらいいのに。
今、私が無理をする事があるならば、それは瞬爾の事だけだと。
温もりを感じるその手を払いのける勇気はなくて、そっと手を重ねて離した。
「久保田さんが待っていますから」
それだけ言い残して、いつもの場所へ向かう。
優しくしないで欲しい気持ちと、優しさで胸をときめかす自分がいる。
それは、瞬爾に片想いをしていた頃の気持ちそのままで、今さら同じ想いを味わっていることが、やっぱり切ないのだった。