わたしから、プロポーズ
音響はほとんど仕上げ段階に入っていて、残すは楽曲の選別だけになっていた。
といっても、そのほとんどを久保田さんが行なっていて、私はただの雑用係。
今日も、いつものように上の空になっていた時だった。
「あんた、思ってたよりモノにならないんだな。初日は威勢のいいタンカを切ってたくせに」
「え?」
久保田さんはオーディオ機器をいじりながら、いつものように顔も見ずに言っている。
初日には嫌みを言いたい放題だったくせに、今日までそれは抑えられていた。
「ただ突っ立てるだけでさ。面白い?この仕事」
久保田さんの嫌みは、受け流してしまえばいい。
それも久しぶりなのだから。
そう割り切っているつもりだったのに、無性にイライラしてしまったのは、きっと瞬爾と美咲さんの事があったからだ。
「久保田さんが、仕事をさせてくれないんじゃないですか!ご自分のこだわりでやりたいんでしょ?だったら私を、さっさと担当から外してください」
息を切らせながら、それが自らこのプロジェクトの失敗を作っている様なものだと分かっていた。
だけど、言わずにはいられなかった。
ほとんど八つ当たりだとも自覚しているけれど•••。
もし、本当に私が担当から外れたからといって、ショー自体が失敗するわけではない。
失敗するのは、私たちの会社だけ。
そう。私が担当を続けられなかった事に対する、瞬爾の部下の管理力不足を言われるだけなのだ。
そうすれば、瞬爾はしばらく海外赴任の話は無くなって、今まで通りに本社勤務を続ける。
かろうじて、海外事業部への異動で海外への繋がりは守られる。
それでいいのではないか。
好きな人が側にいる。
私は営業部で仕事を続けられる。
遙の言うとおり、私が久保田さんを前に無理をする必要なんてない。
きっと、美咲さんだって同じ気持ちに違いない。
瞬爾が日本に残ればいいと思って、私にこの担当を任せたのだ。
最初から、失敗すると分かっていて、美咲さんはわざと•••。
美咲さんがわざと?
わざと、プロジェクトを失敗させる為に私をこの担当に?
「それが希望なら、お望み通りにしてやるよ。ただし、最後に仕事をしろ。そこのテーブルのレコードを返しておいてくれないか?」
呆然としていた私に、久保田さんは冷たく言い放ったのだった。