わたしから、プロポーズ
あれから10軒目。
どの店にも必要なレコードがない。
取り扱いがないか、あっても貸し出し中なのだ。
外はすっかり暗くなり、久保田さんとの約束である『今日中に探し出す』に、黄色信号が灯り始めてきた。
さらに、瞬爾からは連絡がないまま。
どうやら、向こうも忙しいらしい。
それに、これは私の仕事だ。
瞬爾に頼ろうなどと思ってはいけない。
「ヤバイな•••。まさか、ここまで見つからないとは思わなかった」
美咲さんが『借りられているから無理だ』と言っていたのは、あながちハッタリではなかったという事か。
さすがに焦りが見え始めた時、二度目の着信があった。
それは瞬爾からで、困り始めるとかかってくる絶妙なタイミングに、ますます心はときめいた。
「もしもし、瞬爾?」
決して、すがるつもりはない。
甘えをチラリとでも見せたくはないのに、二度目の電話は私から『上司と部下の関係』を壊してしまっていた。
「莉緒、ごめんな遅くなって。レコードはどうなった?」
「それが、全然ダメなの。どこも借りられてる」
思わずため息をつくと、そんな私とは反対に、瞬爾のトーンは明るくなった。
「それなら、ちょうど良かったよ。実は少し遠い場所なんだけど、借りられる店を見つけたんだ」
「えっ?い、いつの間に!?」
これだけ店を巡っても見つからなかったのに、瞬爾は一体どうやって見つけたというのか。
「詳しい話は後でな。それより、今どこだ?タクシーで向かうから」
呆気に取られていると、瞬爾が機敏に話を進めてきて、ハッと我に返った。
「私が迎えに行くから。瞬爾は待ってて」
そして、すぐに携帯を切りエンジンをかけると、元来た道を飛ばしたのだった。