わたしから、プロポーズ
恰幅のいいその男性は岸田さんという人で、手際良くレコードを出してきてくれたのだった。
「これでいいかな?確認して」
「はい。ありがとうございます」
瞬爾はそれを受け取ると、私と一緒に確認をした。
あれだけ探してもなかったのに、見事に全て揃っている。
「良かった。な?坂下、これで安心だな」
「はい•••。ありがとうございます」
何とか久保田さんとの約束は果たせたけれど、モヤモヤするものになってしまった。
結局、自分の力では解決出来ないまま。
私はただ、周りを振り回しただけだったのだ。
「お役に立てて良かったよ。返却はゆっくりでいいから。あ、そうだ。返す時は内田さんに来てもらってよ。彼女と今、同じ仕事をしているんだろ?」
ご機嫌良く笑う岸田さんに、瞬爾は苦笑いをしている。
「もちろん、伊藤くんが嫌だと言うなら、別にいいんだけど」
「美咲に伝えますよ。それじゃ、急ぐので失礼します。本当にありがとうございました」
会釈して店を出る私たちに、岸田さんは愛想良く手を振っていた。
岸田さんの口ぶりだと、瞬爾と美咲さんの関係を知っている様だ。
そんな中で、まるで無関係に見える自分が情けない。
「よし!急いで戻ろう。久保田さんが、待ってくれているんだ」
「そうなの?うん、急ごう。それと、岸田さんって美咲さんを知ってるの?」
車が走り出したところで、思わず聞いてしまった。
あの店の存在は、今まで知らなかった。
だけど、美咲さんが知っているという事実がどうしても気になる。
「ああ。仕事とは関係なく、美咲と行った事がある店なんだよ、あそこは」
「え?それって、プライベートでって事?」
恐る恐る聞くと、瞬爾は小さな笑顔で頷いた。
「昔の話だけどな。それ以来、岸田さんはすっかり美咲のファンでさ」
「そうなんだ」
あの店は、二人の思い出の場所だったのだ。
だから、真っ先に思いついたに違いない。
美咲さんの話を堂々とする瞬爾を見て、自分の片想いという現実を思い知らされてしまった。
それはやっぱり切なくて、心に重くのしかかってくるのだった。