わたしから、プロポーズ
出された料理は、創作と名がつく通りに、どれも斬新で新鮮な料理ばかりだ。
お酒も美味しく、久保田さんの仕事に対するウンチクも耳をすり抜けるくらい十分に楽しめていた。
だけど、ただ一つ。
ずっと気になっているのは、和香子の旦那さんだ。
「なあ、坂下。お前、さっきから樫木を見てばかりで、俺の話を聞いてないだろ?」
いい感じで酔いが回っている久保田さんが睨んでくる。
だけど、今は構っている余裕はない。
「まさか、久保田さんと樫木さんがお友達同士だとは思わなかったので、つい見ちゃってました」
本当、世界は何て狭いのだろう。
偶然なんだか、運命なんだか分からない。
すると樫木さんがにこやかに答えたのだった。
「仕事の上で知り合ったんですよ」
「そうなんですか•••」
久保田さんと友達が出来るくらいだ。
きっと、この人も変わっているに違いない。
お酒を飲みながら、つい目を離せないままでいると、旦那さんに笑われてしまった。
「坂下さん、僕に何か言いたい事があるんですか?」
「えっ!?」
鋭い突っ込みで動揺する私に、久保田さんが割り込んでくる。
「お前がずっと睨みつけてるから聞かれたんだよ」
「いちいち、突っ込まないでください」
久保田さんを睨みつけた後、気まずい気持ちで旦那さんを見ていると、和香子と重なってくる。
どこからどう見ても優しそうな人なのに。
どうして和香子を裏切ったのだろう。
「どうして、和香子とケンカをしてるんですか?」
たまらず突いて出た言葉。
その答えをまともに返してもらえるはずがない。
それを分かっていたけれど、酔いの勢いもあってか、聞かずにはいられなかったのだった。