わたしから、プロポーズ
どんな風に誤魔化されるのか。
そう思っていたのに、旦那さんはアッサリと認めたのだった。
「僕の浮気です。坂下さんはご存知なのでしょう?」
「え?いえ、あの、まあ•••」
問い詰めてやろうかと思っていたのに、逆にこちらが追い詰められている。
そんな私の様子を素早く察知した久保田さんが、身を乗り出して割り込んできた。
顔が赤らんでいるところを見ると、かなり酔いが回っているらしい。
「お前、意外と計算するヤツなんだな。まあ、それくらいのしたたかさが無いと、俺と仕事なんて出来ないか」
「あの、久保田さん。いちいち、話に割り込んでこないてください」
釘を刺すと久保田さんは口を尖らせて、椅子に深く座り直した。
まったく、今は久保田さんではなくて旦那さんだ。
「何で、浮気をしたんですか?女として許せません」
向こうはアッサリ認めたのだ。
こうなったら、遠慮なく問い詰めてやろう。
すると、旦那さんは弱々しい笑顔を浮かべたのだった。
「それは、僕が弱かったところです。和香子は、結婚してからそれまでと違って、世界を狭めていった。それが、僕には耐えられなかったんです」
「世界を狭めた?」
「はい。それまでは、仕事だって趣味だって、自分のスタイルがあった和香子なのに、いつの間か僕が全てになっていた」
「それは、それだけ旦那さんの事を好きだからじゃないですか•••」
と言いつつも、旦那さんの言葉は私が瞬爾との結婚を迷った理由に聞こえて、理解出来る部分もある。
結婚をすることで、世界を狭めていくような気がして迷ったのだから。
「もちろん分かっています。ただ、彼女の気持ちを重荷に感じたのも本当だったので。だからと言って、浮気を正当化するつもりはありません」
旦那さんの話を聞きながら思ってしまった。
もし私が迷いを抱えたまま結婚をして、その後にヒロくんと再会していたら、どうなっていたのだろうと。
瞬爾との結婚生活につまらなさを感じて、ヒロくんとの微妙な関係にときめいたのだろうか。
もしかしたら、私も和香子の旦那さんの様になっていたかもしれないと、そう思ってしまったのだった。