わたしから、プロポーズ


「それが、少し幸せを逃したなぁという後悔があって•••」

笑って誤魔化す私に、久保田さんが大きくため息をついた。
それにしてもこの人は、邪魔なくらいに話の途中で割り込んでくる。

「もう!久保田さん。何ですか、そのため息は」

「お前はさ、まだ望みがあるからいいよ」

何が望みだ。
美咲さんとのキスを知らないから、そう言えるのだ。

「俺なんてさ、もう無理なんだよ」

涙目になる久保田さんに目が点になる。

「あの、久保田さん。それはどういう意味なんでしょうか?」

「ああ?言葉通りの意味だよ。樫木、こいつには通訳がいるんだ。訳してやってくれよ」

すると、苦笑いの旦那さんが教えてくれたのだった。

「久保田ね、3年前に仕事でもパートナーだった彼女にフラれてるんだよ」

「フラれた?」

フラれた?恋人に?

「ええー!?久保田さんて、恋人がいたんですか!」

「驚くのはそっちかよ!ちょっとは聞くのが礼儀だろ?どんな人だったんですか?とか、何で別れたんですか?とか」

思わず声を上げた私に、久保田さんは必死で応戦してくる。
まさか、恋人がいたなんて思わなかった。
恋愛に関してもストイックに見えるからだ。
それに、こんな変わった人を好きになる女性がいるなんて思わなかった。

「あの•••。じゃあ、どんな人だったんですか?」

ハッキリ言って興味はない。
だけど、一応聞いてみた。
すると、久保田さんはまるで独り言の様に小さな声で答えたのだった。

「お前もよく知ってる人」

「よく知ってる人?」

まさか、遙じゃあるまいし。
それなら•••、まさかの美咲さん!?
瞬爾と二股をかけていたとか?
想像をすると怖すぎて口に出せない。
すると、久保田さんがもどかしそうに言ったのだった。

「牛島だよ、牛島!」

「えっ?牛島さん!?」

もしかして、今日一番の驚きはこれではないか。
久保田さんと牛島さんが元恋人同士。
まるで信じられない。
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