わたしから、プロポーズ
だけど、思い返せば納得出来る部分もある。
牛島さんは久保田さんをよく知っている様な言い方をしていたし、何よりプロジェクトが始まってから一向に顔を出さなかった。
その時は私も久保田さんの相手で精一杯で、違和感を感じる暇もなかったけれど、今思えば気まずさからわざと避けていたのだろう。
「そんな事情があるのに、お二人は同じ仕事をしているんですね」
そう言うと、久保田さんは赤い顔を向けた。
照れているからか、酔っているからか、それは分からないけれど。
「仕方ないだろ?俺だって未練があるんだよ。あいつの力になりたいし」
「未練!?信じられないです•••。久保田さんて、普通の男の人だったんですね」
初めて共感できたかもしれない。
ただの風変わりな人という印象しかなかったけれど、ちゃんと恋をする人なのだ。
「あのな。俺だって、普通の人間だ」
不満そうに顔を向ける久保田さんを見ていると、思わず吹き出した。
「だったら、もっと人に優しくしたらいいじゃないですか。その方が、牛島さんもまた好きになってくれるかもしれませんよ」
「無理だね。それは分かってる。だからこそ、仕事に打ち込んでるんだよ」
「そうなんですか?」
それはきっと、久保田さんなりのプライドなのだろう。
心では想っていても、表には出さない。
きっと、出せない•••。
まるで、今の私の瞬爾に対する想いの様で切なく感じた。
「だからな、お前の気持ちだって、本当は分かるんだよ。途中で、何か仕事が上の空だったろ?あの時、絶対に恋愛絡みで何かあったんだろうとは思ってた」
「気が付いていたんですか?」
さすが久保田さんだ。
そんな事まで分かるとは、ますます見直した。
「分かるよ。だけど、お前の為にあえて厳しく接したんだ。よし!今夜は思い切り飲もう!樫木もだぞ?」
苦笑いの旦那さんは、久保田さんに勧められるがままお酒を飲んでいる。
「よーし!私も飲んでやる」
そうよ、そうよ。
グダグダ考えていても仕方ない。
今夜くらい瞬爾を忘れよう。
グラスを手に取り一気飲みした私に、久保田さんは笑顔を向けたのだった。
「坂下、お前と一緒仕事が出来て楽しかったよ」